テレワークにおけるコミュニケーションマネジメント

コミュニケーションの不成立について

多くの企業がテレワークへ移行し、新しい働き方に挑戦しているが、実際の仕事の面では未だに、これまでの日本のお仕事慣習に従った “通話”が席巻している。
相手の顔を見ながらの行き当たりばったりの会話が、コミュニケーション作業効率を大きく阻害しているにもかかわらず。

本来、テレワークでのコミュニケーションは、単なる会話というよりは対話(ダイアログ)であるべきで、対話を成立させるためにはシナリオ(台本)や、図表を事前に準備するのはもちろんのこと、対話の最中に聴く人の興味を維持する発声や間の取り方を考慮した伝え方をすることが必要である。

しかし、普通にface to faceで 会社の大部屋で会話をしている延長でテレワークをしようとするとコミュニケーションは成立しない。
従来の会話では相手の表情や言葉以外のニュアンスをお互いが暗黙に読み取っており、テレワークではこれが困難になるからだ。

こうした困難を乗り越えてコミュニケーションを成立させるためには、「限られた時間で、お互いが対話の順序やプロトコルを守って情報伝達する行為が、テレワークにおける正しいコミュニケーションである」ということを、いまいちど強く認識する必要がある。

コミュニケーションの目的はなにか

そもそも何を伝えるか、伝える側として、ドキュメントや図表、動画などを使って相手に自分の意図を正確に伝えることこそ、コミュニケーションの重要な目的であり、そのための「コミュニケーション計画」があって然るべきはずだが、日本のお仕事習慣の中では軽視され続けている。

話す相手の癖や背景は暗黙知として理解していても、そこから実務において、どうすれば相手に意図が伝わるかを綿密に設計することはあるだろうか?
有能なプレゼンテーターやコーディネーターやプロジェクトマネジャーはコミュニケーションの場においてそれを実践している。
それでも、日々のテレワークで、お互いの作業の同期を取るために必須なコミュニケーションの場においては、そういった計画がおざなりになってしまいがちである。

プロジェクト管理は、もともと言語と慣習が異なるメンバーを統制しながら、同一の目的に対して、メンバーの作業を継続させるテクニックである。
言語と習慣が異なるメンバーを統制する時に、特に大事なのが「コミュニケーション計画」であることは自明である。

コミュニケーション(Communication)という語は、ラテン語のコムニカチオ(communicatio)に由来し、「分かち合うこと」を意味するものである。
この語には、意思や感情や思想などを伝達し合うこと、伝えること、伝わること、自分の心の状態を他者に対して伝えるだけでなく、他者から受け取った情報により、相手の「心」の状態を読み取ったり、「共感」したりすること(他者理解)も含まれる。

つまり、コミュニケーションの成⽴は、そのための適切な発信⾏動が取られたというだけではなく、「受け⼿が適切なシグナル・媒体に注意を向けて情報を受信した上で、さらに的確な理解をしているかどうか」という点にもかかっている。
つまるところ、「ビジネスコミュニケーションの定義」=相互理解を基本とした「納得のプロセス」が重要となる。

テレワークになって無駄な移動時間が激減しているのだから、コミュニケーションを戦略的に考察して準備するための時間は十分あるはずだ。

コミュニケーションに計画は必要なのか

コミュニケーションには、無駄なものと本当に必要なものがある。
本当に必要なコミュニケーションとは何か。
それは、事前に計画しなければ定義できるわけもないのが事実なのだが、それをご理解でない組織は多いように思う。

もともとコミュニケーションとして単なる報連相しか頭に浮かばない程度の組織では、せっかくWeb会議用にSlackやGoogle meets、Zoomを用意しても、無駄な会議とスレッドで埋まってしまう。

例えば、顧客への営業から開発受注にいたる経過をみていても、事前準備されたケースは、そうでないケースに比較して、すべてのコミュニケーション時間が短縮されていくことが判明している。
特に顧客との合意をとりつつ、方向性を模索して新たな問題を解決するためのプロトタイプを作りあげて、共同でPoC(Proof of Concept)を成立させる場合などにそれは顕著に現れる。

そういうケースでは、プロジェクト管理は必須のスキルであり方法論であるが、なによりもテレワーク環境下では、コミュニケーション計画がモノを言う。
テレワークにおけるコミュニケーションでは、事前準備の有無で大きな差異が生まれるのだ。

コミュニケーション計画はどうあるべきか

以下の5項目だけでよい。

(1) 目的は?
(2) 誰が、いつ、誰に、何(情報)を、どのように、伝えるのか?
(3) 決定、解決策、創造、伝達のどれなのか?
(4) 我々は何を与え、相手はそれにより何を得るのか
(5) 相手への動機付けはどこにおくのか

これらが明確に定義されて記録されていないなら、そもそもコミュニケーションは成立しない可能性が高い。
目的もないなら、いっそコミュニケーションする必要すらない。
時間の無駄である。

本当に必要なコミュニケーションのためには、様々なソフトウェアツールやプレゼンテーション技法の手練手管を使う前に、一にも二にも「コミュニケーション計画」を立てるしかないが、上記(1)―(5)は、たいていの場合において無視されつづけている。

よく「話せばわかる」とは言うが、これは大嘘で、一説によると同一言語の対話でも相互理解は難しく、対話内容の30%は理解されていないとも言われている。だいたい同一国内でも、業界が違えば言葉や慣習が大きく違う。
まして、そのコミュニケーションに中に、複雑なロジックが組み込まれたりすれば、理解度合いはさらに減少していく。
だから、話せばわかる、ではなく「準備され尽くした場合、話せばわかる確率が高まる」にすぎないのがコミュニケーションにおける真実である。

弊社も、社内ポータルを使い、「Slack」「Google Drive」「Github」「Google meet」などを常時活用している。
これらは非同期だけどリアルタイムなコミュニケーションを支えてくれる、優れた基盤ソフトウェアである。
テレワークで移動時間をゼロにできているのはこれらのツールのおかげである。

Slackは、公開スレッドであれば発言はあとから追跡可能であるし、リマインドや追加発言に大いに役に立つ。
慣れれば、他のプロジェクトに知識を縦横に再利用できるだろう。
さらに、正式なプロジェクト計画のどの作業(弊社の工程’s Orarioのデータ)に、どういった関連するコミュニケーションが発生したのか?それを自動的に紐づけることで、組織の知見をより有効に積み上げていくことができる。

だが、「コミュニケーション計画」なしでこれらのツールを使っても、誰に何が伝わるのか?
それは甚だ心もとない。

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執筆者プロフィール
中村 哲也
品質保証部

1982能力開発大学校電子工学科卒業。
CAD/CAM/CIMメーカーなどを経て2000年(株)ウェッブアイに入社し、コンサルティングに従事しSCMシステムや新製品開発プロジェクトマネージメントシステムを中心としたシステム開発マネジメントに従事。